デス・オーバチュア
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白剣と黒剣が振るわれる度に、光が舞い、闇が煌めく。 「うおおおおおおおおおおっ!」 ラッセルの双剣は剣術と呼ぶにはあまりにも荒々しく力任せだった。 「…………」 シャリト・ハ・シェオルは舞踏(ダンス)のような華麗で優雅な動きで、光と闇の双剣を余裕でかわし続ける。 「くっ……闇よ!」 黒剣が大地に叩きつけられると、闇が噴き出し津波のようにシャリト・ハ・シェオルを呑み込もうとした。 「ふん」 シャリト・ハ・シェオルが無造作に左手を振り上げると、闇の大波が真っ二つに引き裂かれる。 「ほう、二段構えか」 闇を引き裂いたシャリト・ハ・シェオルの眼前に、莫大な黄金の光輝が迫っていた。 「フッ!」 「ああっ!?」 無造作に突きだされた右手が、黄金の光輝をあっさりとラッセルへ弾き返す。 「ちぃ!」 黒剣から闇が吐き出され、黄金の光輝を相殺した。 闇と光輝が消えると、入り替わるように七発の弾丸が飛来する。 「なめるなっ!」 ラッセルは白剣を投擲した。 白剣は迫る弾丸を全て蹴散らして、そのままシャリト・ハ・シェオルの心臓を狙う。 「フッ……」 シャリト・ハ・シェオルは右手で白剣を掴み取ると、即座にラッセルへ投げ返した。 「ちっ!」 ラッセルは黒剣を投げつけて、白剣を迎撃する。 光と闇の剣が激突した瞬間には、ラッセルはすでに青剣と黄剣を抜刀してシャリト・ハ・シェオルへ斬りかかっていた。 シャリト・ハ・シェオルは空高く跳躍して回避すると、地上へ向けて二丁の拳銃を乱射する。 「風よ!」 青剣が振られて巻き起こった暴風が、全ての弾丸を呑み込み遮った。 「ほう」 シャリト・ハ・シェオルは一瞬で、二丁拳銃の弾倉を同時に再装填する。 再び放たれる弾丸の雨、だが、ラッセルの姿はすでに地上にはなかった。 「雷!」 夜空に響く轟音と閃光。 「む?」 上空を仰ぎ見ると、雷を纏った青剣が天からシャリト・ハ・シェオルに迫っていた。 「……破っ!」 シャリト・ハ・シェオルは地上に着地すると同時に回転し、天より降った雷の青剣を弾き飛ばす。 「……ふん、所詮この程度か」 回転を止めたシャリト・ハ・シェオルの口元には、嘲笑と失望が浮かんでいた。 「俺を舐めるなああっ!」 ラッセルの叫びと共に空から飛来するのは、超巨大な黄剣。 剣の柄頭の宝石だけでも、シャリト・ハ・シェオルより遙かに大きかった。 黄剣は隕石のように地上に激突する。 凄まじい衝撃と爆風が巻き起こり、地上に巨大なクレーターが生まれた。 「……勝手にひとの能力を公開しないで欲しいわね」 森の中から、銀髪の少女クロスティーナ・カレン・ハイオールドが姿を現す。 「おや、久しぶりですね、クロスティーナさん」 巻き添えをくわないようにちゃっかりと黄剣の落下点から離れていた傍観者(観客)達に、クロスが合流した。 「見たことあるような、覚えがあるような、ないような……」 コクマ、エアリス、ディアドラ、メディア……とこの場に居る者達に胡乱な眼差しを向けていく。 「クロス?」 「あ、姉様! 良かった無事だったのね〜」 姉の姿を確認するなり、クロスは表情一変、瞳を輝かせた。 「相変わらず露骨というか、解りやすい方ですね……」 「うるさい、余計なお世話よ!」 コクマを一喝したクロスは、視線をクレーターの中心に突き立っている超巨大な黄剣に移す。 「……で、アレはラッセルとか言ったけ?」 クロスの視線の先、黄剣の鍔の上にラッセルらしき人影があった。 「ええ、ラッセル・ハイエンドさん。あなたが敗れたアクセルさんの双子の弟ですね。面識ありましたか? 『あなた』に……」 「さあね、あたしだったかシルヴァーナだったかセレスティナだったか忘れたけど、何度か目撃ぐらいはしているみたいよ?」 ファントム最終決戦、ホワイトでの魔王ゾロゾロ出現事件等々……クロスは三人分の記憶を検索していく。 「あ、それ以前に、レッドで紫苑と対峙した時に会ってたわ……今まで完全に忘れてたけど……ダイヤに瞬殺された……」 「うるせぇっ、外野!」 「とっ?」 いきなり軽く跳躍したクロスの足下に、水色の剣が突き刺さった。 「聞こえてたのね……て、トゥールフレイム? 形が少し違う気がするけど……」 「ええ、トゥールフレイムの紛い物(フェイク)ですね。それとも、トゥールフレイム色(カラー)のバイオレントドーンと呼ぶべきでしょうか?」 コクマの言葉通り、大地に突き刺さっている剣はトゥールフレイムと同じ半透明な水色だが、細身の長剣……つまりバイオレントドーンと同じ外見(デザイン)をしている。 「まあ、所詮、模造品(イミテーション)で……」 言葉を途中で句切り、一歩後ろに下がったコクマの眼前を、紫色の剣が掠める。 「今度はタイムブレイカーですか?」 大地にタイムブレイカーが刺さった直後、無数の鎖が地を貫いて飛び出し、コクマを捕らえようとした。 しかし、コクマは予め全ての鎖の軌道が解っていたかのように、最小限の動きだけで鎖を避けきる。 コクマを捕らえ損なった鎖達は、水色の炎に包まれながらバラバラに切り刻まれて崩壊した。 いつの間にか、コクマの左手には水色の半透明な剣……本物のトゥールフレイムが握られている。 「いいんですか、ラッセルさん? 余所見なんてしてて……」 「ああん? どういう意……」 「そのままの意味よね」 「あっ!?」 突然、ラッセルの足下が斜めに傾いた。 「……いつまで乗っている気だ?」 地の底から響いてくるような声。 遙かな眼下、大地に突き刺さっているはずの黄剣の先端にラッセルが視線を向けると、そこにはシャリト・ハ・シェオルが居た。 シャリト・ハ・シェオルは黄剣の先端を左手で受け止め、全長数百メートルの超巨大黄剣を片手で担いでいる。 「ば……!?」 「馬鹿なか? それとも化け物か? いずれにしろ、これくらいで何を驚く……この未熟者がっ!」 「うああああっ!?」 ラッセルを乗せたまま黄剣は空高く放り上げられた。 「少しでもお前に期待した私が愚かだった……Nodens……」 シャリト・ハ・シェオルは空に向けて左手を突きだす。 「……深淵銀砲(シルバーブラスター)……解放(オープン)……」 掌の前の空間に燃え上がる五芒星が出現し、彼女の左腕が巨大な銀色の『砲身』へと変わっていった。 そして、巨大な砲口に凄まじい勢いと激しさで銀光が集束されていく。 「ちぃぃっ! 戻れ、八翅よ!」 「……深淵に沈め!」 燃え上がる五芒星を撃ち抜くようにして、爆発的な銀光が空へと解き放たれた。 八つの神剣の柄が連結し、巨大な華か、八方手裏剣のような形を形成する。 神剣が連結して生まれた巨大華は、花びら一枚ずつがそれぞれの色に輝きながら、高速回転を開始した。 白、黒、青、黄、水、紫、灰、赤の八色の煌めきが混ざり合った巨大な円形の障壁が、ラッセルの姿を覆い隠す。 「神華八煌咲(しんかはっきしょう)!!!」 八煌の神華(円状の障壁)に、シャリト・ハ・シェオルの深淵銀砲から放たれた銀光が激突した。 「ぐぅぅ……」 ラッセルは神華八煌咲にエナジーを注ぎ続けて固定し、銀光の負荷に抗い続ける。 「ほう……一瞬でもノーデンスを受け止めるとは……だが、無駄だ」 「ぐっ!?」 神華八煌咲から何かが粉々に砕けたような音が聞こえてきた。 「あああっ!?」 さらに、同じ音が連続で鳴り響く。 「攻撃は最大の防御という言葉があるが……それは攻撃が防御の変わりになるという意味ではない」 「あ……ああ、ああああああああああああああああああっ!?」 八度目の音が響いた瞬間、神華八煌咲は八色の塵と化して『霧散』し、銀光がラッセルに直撃した。 銀光はラッセルの姿を呑み尽くし、そのまま天を貫くように消えていく。 「なるほど、バイオレントドーンが持っているのは七神剣の攻撃力(能力)だけ、防御力は持っていないということですね」 「剣の防御力?」 コクマの呟きに、タナトスが疑問の声を漏らした。 「バイオレントドーンは鋭さだけを限界まで高めたせいで、脆さを持ってしまった剣……て、その顔はいまいち理解できていないみたいですね?」 「う……」 「そうですね、例えるなら……硝子でできた鋭利な剣を想像してください。恐ろしいまでの切れ味(攻撃力)を持ちますが、受けに回った……自分が叩かれた時は『最強』に脆い……」 「あ、それなら……一応解る……」 「結構。まあ、実際はそこまで脆くはないでしょうが……極東刀のようにあくまで相手を斬る(殺す)ことに重点を置いていて、受け(耐久力)は二の次なのでしょうね」 細く長く、そして『薄い』のがバイオレントドーンの特徴である。 同じ神柱石でできた十神剣の中でもっとも脆いのは間違いなかった。 「先程の神華八煌咲とかも、八色の光(力)を放出して相手の攻撃(力)を打ち消すのがメイン……骨組み(八本の神剣)自体はやはり脆い……」 タナトスへの説明を終えると、コクマは空を見上げる。 「……ふむ、やっと落ちてきましたか」 空の彼方で何かが光ったかと思うと、物凄い落下速度でラッセルが大地に落ちてきた。 「くぅぅ……」 大地に片膝をついたラッセルのコートはところどころ無惨に破れている。 「脆い脆いといっても神剣は神剣……ノーデンスの威力を削るぐらいはできて当然ですね」 「初めてだな……この腕で消せなかった相手は……」 ラッセルの後頭部に銀色の拳銃が突きつけられた。 「……く……ぅ……」 「もっとも……片手で数えられる程度しかまだ撃ったことがないがな……」 シャリト・ハ・シェオルは迷わず左手の拳銃を発砲する。 だが、弾丸はラッセルの姿を擦り抜け大地に命中した。 弾丸の擦り抜けたラッセルが薄れて消えると、シャリト・ハ・シェオルの背後に本物のラッセルが出現する。 先程まで無手(むて)だったはずの左手には黄剣が握られており、シャリト・ハ・シェオルの首を狙って迷わず振り下ろされた。 しかし、今度はラッセルの黄剣がシャリト・ハ・シェオルの体を擦り抜ける。 「お前と同じ手だ」 シャリト・ハ・シェオルはラッセルの背後に出現すると同時に、漆黒と銀色の二丁拳銃を発砲した。 「ちぃっ……」 ラッセルは黄剣で弾丸を切り払いながら、後方へと跳び離れる。 「目覚めよ、獰猛なる黒き大地よ!」 黄剣が地に突き立てられると、大地が獰猛な牙を持った『巨大な口』に変じ、シャリト・ハ・シェオルへと喰らいつこうとした。 「ふん……」 シャリト・ハ・シェオルが自ら巨大な口の中へ右手を突っ込むと、次の瞬間、巨大な口が内側から消し飛び、巨大な暗黒の球体が発生する。 「なああっ!?」 「逝け」 彼女はそのまま、自身より巨大な暗黒球をラッセルへ向けて押しだした。 「ちっ……しまった、こいつは!?」 暗黒球に黄剣を斬りつけた瞬間、ラッセルは自分の間違いに気づく。 コレは斬りつけるのではなく、絶対にかわさなければいけなかったのだ。 接触した黄剣が吸われるように『消え』ていく……後を追うように彼の左手の指も暗黒球の中に吸われ(消えて)……。 「ちぃっ!」 ラッセルは右手刀で迷わず左腕を肘から切断し、後方へと跳び離れた。 体から切り離された左手は、即座に暗黒球の中に吸われて消失してしまう。 「く……ぐううっ!?」 そして、暗黒球は爆散し、暗黒の衝撃波がラッセルを森の奧へと吹き飛ばした。 「純度の薄い『混沌』の放出ですか……アザトゥース(本体)を出せば瞬殺でしょうに……嬲りますね……それとも節約ですか?」 なんとなくコクマには彼女の考えが解る。 彼女……いや、コクマの知っている彼は、『格下』相手に全力は出さない(見せない)タイプだ。 無論、アザトゥースやノーデンスを出すと恐ろしく腹が減る(消耗する)ので、あんまり使いたくないという節約術(理由)も少しはあるだろうが……。 「……まだ……だ……まだ……終わっちゃいないぜっ! あああああああっ!」 森の中から飛び出してくるなり、ラッセルは激痛に耐えるような叫びと共に、新たな左手を生やした。 「ああ……はあ……さあ、続きを始めようぜ……」 新たな左手の甲に深紅の奇妙な紋章が浮かび上がる。 「息が荒いぞ……体力も精神力もとうに限界のようだな……」 「うるせぇっ! 勝手にひとの限界を決めつけるんじゃねえぇっ!」 ラッセルの左手に深紅の長剣バイオレントドーンが召喚された。 「ほう、全ての神剣が砕けたと思ったが違ったのか……?」 「はあ……ふぅ……何を勘違いしていやがる……あんたが砕いたのはバイオレントドーンの中の七つの神剣(要素)と赤剣(第八要素)の一部だけだ……」 「ふむ……よく解らないが……お前が無理をしているのだけは一目で解るぞ」 シャリト・ハ・シェオルは意地悪な微笑を口元に浮かべる。 「くっ……」 「おそらく、神剣を八本にしている時は、バイオレントドーンの中の八要素(力)を放出して具現化(物質化)させているのでしょうね。本体である本物のバイオレントドーンは自らと同化させたまま表に出さずに……」 コクマが誰にも頼まれていないのに、解説を口にした。 「まあ……そんなところだ……」 荒かったラッセルの呼吸が整えられる。 「じゃあ、いくぜ……さっきは見せられなかった第八要素(赤剣の力)……七神剣の複製(コピー)とは違う、バイオレントドーンだけが持つ能力(戦闘力)をなっ!」 ラッセルの持つ赤剣が、剣刃から赤い光輝を炎のように吹き上がらせた。 「なるほど、バイオレントドーンだけの要素、属性は『攻』……つまり、『攻撃力』そのものでしたね」 「黙りな、解説者。もう解説なんていらねぇ……決着がついた後、そいつらにゆっくりと説明してやりな、俺がどうやってアクセルを葬ったかをなっ!」 コクマを黙らせると、ラッセルはシャリト・ハ・シェオルへと一歩で間合い詰める。 「受けな、これが純粋な攻撃(復讐)の力だっ!」 「フッ!」 赤剣が振り下ろされる直前、シャリト・ハ・シェオルは体を半歩横にズラした。 彼女の横を赤い衝撃が駆け抜けていく。 赤い衝撃は森を真っ二つに引き裂いて、地平の彼方へと消えていった。 「ほう、言うだけのことはある……直撃していたら危ないところだった……だが、後何回、その剣を振るえる……?」 シャリト・ハ・シェオルは全てを見透かしたように微笑する。 「もうとっくに精気はつきているはず……今のお前は、生命力そのものを吸わせてなんとかバイオレントドーンの形を……」 「うるせぇっ!」 「おっと」 赤剣が横に一閃される直前、シャリト・ハ・シェオルは空高く跳躍してその一撃を避けた。 代わりに、後方の森の大木達が全て横に両断されてしまう。 「大降りじゃ駄目か……なら……」 突然、赤剣の鍔から先の剣刃が全て消滅した。 ラッセルはいつのまにか持っていた漆黒の鞘に、刃を失った剣を収める。 「不純物(七つの力)を取り除き……その鋭さ(攻撃力)だけを限界を超えて高めろ……この世でもっとも純粋なる刃……赤淘絶刃!」 鞘から引き抜かれた赤剣は、極東のような細く反りのある赤黒い刀身をしていた。 「ほう……」 赤淘絶刃の禍々しき『美』に、上空のシャリト・ハ・シェオルが感嘆の声を漏らす。 「一撃だ……一撃で決める! この一撃に俺の全てを込める……」 ラッセルは赤淘絶刃を再び鞘へと収めると、腰を屈めて居合いの構えをとった。 「怖けりゃ……避けたきゃ避けてもいいぜ……」 「フッ……安すぎる挑発だ」 もし、シャリト・ハ・シェオルに全力で回避行動だけに回られて、全てを込めた一撃を空振ればそれだけでラッセルは自滅する。 だから、ラッセルは避ければ『それは勝負からの逃げ、お前の負けだ』というニュアンスを込めた挑発を口にしたのだ。 「だが、乗ってやろう」 シャリト・ハ・シェオルは、ラッセルの思惑が全て解った上で、右手を巨大な漆黒の黒刃へと転じさせる。 「へっ、生まれて初めて感謝するぜ、兄貴……」 「礼は無用だ。試合に負けて勝負には勝ったなどと思われたまま、冥土に逝かれてはたまらぬからな……さあ、見せてみろ、お前の全てを!」 「ああ、いくぜ……赤淘絶刃よ、全てを斬り尽くせ! 赤破絶詠斬(せきはぜつえいざん)!!!」 「混沌に帰えよ!」 ラッセルが抜刀と共に跳躍するのと、急降下するシャリト・ハ・シェオルが黒刃を振り下ろしたのはまったくの同時だった。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |